八ヶ岳 硫黄岳〜赤岳縦走・赤岳主稜
報告:花折敬司
山行日 2009年12月25日(金)から27日(日)
参加者 花折敬司 花折 忍 (らくなん山の会)奥西一博 網岡国江
コースタイム
<12月25日(金)晴れ>
10:00〜40美濃戸山荘  13:26行者小屋 赤岳主稜の取り付きまでの下見  15:00行者小屋

<26日(土)小雪 風強し後晴れ>
 6:50行者小屋  7:20赤岳鉱泉  9:20赤岩ノ頭  9:50硫黄岳  10:20〜25硫黄岳山荘  11:40〜50横岳  12:09三叉峰  12:42地蔵仏  13:30〜50赤岳  15:00行者小屋

<27日(日)晴れ>
 7:00行者小屋  8:00赤岳主稜取り付き  9:□□登攀開始  12:42花折パーティー終了  
 13:27奥西パーティー終了  13:50赤岳  14:35〜15:22行者小屋  16:44美濃戸山荘
<25日>
早朝、京都を出たので10時には美濃戸山荘に着いた。すぐに準備をし、出発する。あわてて出たので計画書を提出するのを忘れてしまった。最初から反省である。久しぶりの重荷に喘ぎながら、夏道2時間ほどの所を2時間45分ほどもかかって行者小屋に到着する。すぐにテントを設営して、明後日の赤岳主稜の下見に出かける。文三郎尾根を1時間ほど登った所から斜面をトラバースして取り付くのだが、そこまで登ると目の前に、インターネットで下調べしたチョックストーンのあるルンゼが見える。その報告を思い出しながら、そこから上のルートをずっと追ってみる。いくつかの報告や本から得た情報からの私の想像では、主稜の尾根上を登るものだと思っていた。それがとんでもない間違いだということが、実際に登ってみて分かるのだが、この時点では私の眼は尾根上のみを追っていたのだ。
下見を終えてテント場に戻り、前夜祭をしっかりして眠りに就く。今晩のテントは我々だけであった。


<26日>
トイレに起きた時にはまだ満天の星であったのだが、夜半から雪がテントをたたき出す。昨夜の天気予報では、今日は、午前中は雪、午後は晴れということであった。そこで、それなら先に樹林の中を進む硫黄岳からにした方が、赤岳が午後になるので安全ではないかと相談した結果、計画書に書いたルートを逆回りすることにする。これが結果的に大正解であった。
明るくなってヘッドランプを点けなくても良いようになってから出発する。中山乗越を下って赤岳鉱泉へ。そこから硫黄岳へと登る。下のほうは風もなく穏やかだったが、高度が上がるに従って風が強くなってくる。我々の前には前日までのトレースはあるが、その上に雪が積もっていて、今朝ここを通った者はいない。赤岩の頭直前で、若い10名ほどの団体が追い付いてきたが、休憩を取って先へ行こうとはしなかった。大学生だろうか。赤岩の頭からは広い尾根となるので、ルートファインディングが必要になる。我々は地図から、コンパスの方角を北東42〜3度に設定して前進する。途中で単独行者が抜いていく。頭から30分で硫黄岳の頂上に着く。

視界は30m程で風も強く、どうしようかと迷ったが、とりあえず小屋まで下って様子を見てみようということで、先へ進む。ここからは南東方向になる。やはり地図で方角をしっかり合わせて進む。しばらく下ると大きなケルンが出てくる。これが見つかれば、そこから数10m置きに続いているので問題なく小屋まで到達出来る。小屋の影に入ってしばらく休憩をする。強風のために我々のザックや上着は霜で真白である。視界も相変わらず悪いので戻るべきかどうか迷い、戻るほうに気持ちは傾きかけたが、これくらいの風なら冬山ならよくあることだし、4人の技術から見て縦走は問題ない。天気予報も午後は晴れで今が一番悪い時間帯だからこれから良くなっていくだろうと断して、先へ進むことに決定する。
ルートはロープが張っているので問題はない。登り始めて少しすると周りが明るくなってきて、時々雲が薄くなった所から、ぼんやりと太陽も見えるようになる。岩稜帯に着く頃には視界も良くなり、その上に風も弱まって、我々の予想がことごとく当たって嬉しくなってくる。岩稜帯には鎖が張ってあるし、技術的にも難しいところはない。頂上直下で雪稜が出てくる。風が強ければちょっと躊躇する個所だが、ほとんど感じないほど弱まっていて、問題なく通過できた。トップを敢然と行く奥西さんが逞しい。続く網岡さんも経験が増え、安定して歩いている。二人とも山屋の風格が出てきた。横岳頂上着、11時40分。笑顔で記念写真を撮る。

 
ここまで来ればあとは慎重に下るだけ。トップを花折に替わり、赤岳へ向かう。途中大きく東側を巻くところも難なく通過して、地蔵尾根の頭を過ぎると赤岳展望荘である。ここに着く前から青空が大きく広
がりだす。風は再び強まってきて、顔に叩きつける雪氷片が痛い。目を開けていられない時もある。たが、青空は我々の気持ちを明るくしてくれる。一気に赤岳の頂上を目指す。急登に喘ぐが、奥西ペースを守って一歩一歩高度を稼ぐ。そして、ついに赤岳頂上を足下にした。今日、このルートを踏破したのは我々だけであった。決して条件が良くなかった中で、強風に耐え、ルートファインディングを的確にこなしてここまで到達したことに4人とも強い満足感を感じる。赤岳頂上には数人がいた。我々もここで記念写真を撮る。遠くに富士が時々顔を出す。感激一入である。
 下山は文三郎コースをとる。最初は鎖場の下りである。急ではあるが、鎖がずっと張ってあるので安心して下れる。中岳への分岐を過ぎると傾斜も多少落ち、トラバース気味に下るようになる。この頃には稜線のガスも完全に飛び、我々に素晴らしい景色をプレゼントしてくれる。東側には権現へ続く稜線、その南には阿弥陀岳が大きく険しい山容を惜しげもなくさらけ出している。しばし写真タイムにする。
さらに下って、昨日下見にきた場所に着く。赤岳主稜は昨日とは違って雪がついて白く、厳しい感を強くしている。取り付きまでのトラバースも、雪崩れるほどの積雪ではないことを確認して、行者小屋のテント場まで下って、今日の縦走を計画通り終了する。大満足の一日であった。


<27日>
今日は、今回のメインの主稜登攀である。多少緊張して準備をし、昨日同様明るくなってから出発する。取り付き点近くになると先行パーティーが取り付いているのが見える。3人パーティーだがトップが出だしからルートをミスしている。
最初から何をしているのか、どんな情報を得てきているのか。これでは今日は時間待ちが長くなるだろうと覚悟して取り付きに急ぐ。さらに先行者2名が待機していた。もう30分以上も待っていると嘆いていた。神奈川から来ている若い日本人の女性とアメリカでプロのガイドをしているという青年である。今は日本の大学で英語の講師をしているとのこと。
先のパーティのトップがルンゼを登ったので、神奈川の2人が取り付き点に移動する。我々の後からも二人が到着する。今日はこの4パーティーが登ることになるらしい。前を見るとすでに確保体制ができているのに、後の2人が一向に動く気配がない。何をしているのだ。トップも「上がってこい。」のコールをかけようとしない。どうなっているのだ。しばらく待っていたが、あまりにも長いので待ち切れず、私がトップに向かって、「準備ができているのなら早くコールをかけろ。」と思わず怒鳴ってしまう。
やっとフォローの二人が同時登攀で登ったので、我々も取り付き点に移動する。アメリカ人の青年はガイドだけあって取り付きのかぶり気味のチョックストーンを軽々と登っていく。続く女性も登ったので我々もペツルのアンカーに支点をとって準備をする。すると突然大きな石が落ちてきて吃驚する。女性が落としたのだ。このようなルートにはあまりなれていないのだろう。注意しなければならない。
さて、やっと我々の番が回ってきた。これ以後、出来るだけ正確にルート解説をすることにする。


<1ピッチ目 約30m>敬司
出だしに一抱えもあるチョックストーンがある。かぶり気味になっているので
これを超えるのがこのピッチの核心。まず左外の方にアイゼンの爪で乗り、チョックストーンの上をホールドにして越える。超えると左手上にペツルのアンカーがあるが、これに支点をとる意味があまりないように思う。雪が少ないとこのチョックストーンの下をくぐっていけるようだが、それでは面白くないだろう。このあと、浮き石の多いルンゼを10mほど登り、右に回り込むように登るとしっかりしたアンカーがある。ここでピッチを切る。

<2ピッチ目 約35m>敬司
支点左のフェースを左のカンテから上ると簡単な雪面になる。ランニングビレーはほとんど取れない。これを登って前の二人が支点を取っている手前の右手カンテ状の岩にテープシュリンゲを巻いて支点とする。前の二人も、その前の3人が支点を取っているところまで伸ばせないので、手前の岩を支点としている。先行者がなければ、このピッチ40〜45m伸ばせるだろう。

<3ピッチ目 約50m>忍
簡単な雪面。ピナクルで2ヶ所ランニングビレーをとる。2ピッチ目終了点の支点が前のパーティーとの関係上10mほど手前になってしまったので、ロープの長さが5mほど足りず、ランニングビレーをしっかり取っていることを確認して5mほどを同時登攀とする。岩に打ってあるピトンで確保。

<4ピッチ目 約40m>敬司
簡単な岩稜を登って傾斜の緩い雪面へ。岩に打ってあるピトンで確保。ここもいわゆる終了点手前となる。

<5ピッチ目 40m>忍
緩い雪面。正面に主稜の大きな壁が立ちはだかる。その手前下の方の低灌木の根で確保。4ピッチ目のいわゆる終了点からだと、5ピッチ目でペツルのアンカーのある確保点まで到達できる。


<6ピッチ目 30m>敬司
緩い雪面を問題なく登る。アンカーが空いていないので、岩にテープシュリンゲを巻いて確保。空いてから忍が登ってきてアンカーで敬司を確保。

<7ピッチ目 30m>敬司
主稜の核心部といわれているピッチ。このピッチ、ネットの報告などを読むと正面の凹角に残置シュリンゲがかかっていて、それに沿って登っていくと書かれている。しかし、それは間違い。そこは難しすぎて登れない。これを読めば登ってしまいそうになるが、正面に見える壁は登らないと覚えて欲しい。壁にそってその下の雪面を右上して右上のカンテまで伸ばすと、しっかりしたペツルのアンカーがある。それを右側に回り込んで登って行くのである。
簡単なカンテを登って、右上に登っていくと正面がフェース、その向こうにチムニー状のルンゼがある。そのチムニー状を登る。ここが核心だというが、簡単である。これを登るとすぐにペツルの支点があるが、使っているので、私はさらに上に登ってピトンと岩に巻いたテープシュリンゲで確保する。忍はチムニーを登らずにロープの通っている通りに登ってきたのでかなり手こずった。私が指示しなかったのがいけなかった。

<8ピッチ目 40m>忍
簡単な雪面。凹角に支点があるが、使っているのでその左のピトンで確保。

<9ピッチ目 30m>敬司
凹角を登るのがほとんどのようであるが、左手の傾斜の緩い簡単な岩稜を登る。最後のルンゼ状を抜ける所の岩で確保。

<10ピッチ目 30m>忍
傾斜の緩い斜面を登って終了。確保点は岩。


この後、奥西・網岡パーティーの到着を待って赤岳頂上で記念写真を撮り、急いで下山にかかる。暗くならないうちに美濃戸まで下らなければならない。昨日下った文三郎道なので勝手も分かっている。途中、主稜へのトラバース地点で、今日登ったルートを確認する。今回は花折敬司の下見でのルート予想は全く外れてしまった。あの予想通りだととんでもない所を登ることになる。現地での適切な判断が大事で、予断を持たないことが大切である。
テントも一気に撤収して、早々に行者小屋を辞する。もみの湯で汗を流して帰京の途につく。今回は縦走の前半以外は天気に恵まれ、4人の足も揃い、最高の山行ができた。奥西、網岡両氏にとっては、本ちゃんマルチピッチのとても貴重な体験となったのではないだろうか。この体験を次にも生かして欲しい。ヒヤリハットもなし。


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