<個人山行> 

明神岳東稜登攀〜明神岳主稜下降

2014年8月11日(月)夜 京都発〜13日(水)
<明峯>花折敬司(CL)、花折忍 <らくなん>奥西一博(SL)、網岡国江
小梨平キャンプ場(3:25)−(4:00)明神池(4:10)−(7:00)瓢箪池(7:25)−(9:17)明神池−(10:00)小梨平キャンプ場
小梨平キャンプ場(3:00)−(3:40)明神橋(3:55)−(6:15)瓢箪池(6:35)−(7:10)第一階段−(9:10)ピーク−ラクダのコル上登攀開始(9:30)−バットレス登攀開始(10:00)−(10:45)登攀終了−(11:05)明神岳本峰(11:20)−U峰登攀開始(11:50)−(12:20)登攀終了(発12:50)−(13:50)X峰(14:00)−(15:20)ナイフリッジ(15:30)−(16:30)岳沢登山道−(17:20)小梨平キャンプ場−京都
  8月12日(火)
  昨日までの天気予報では、12〜13日はどれを見ても晴れ。台風一過の晴天に胸ふくらませて上高地に入る。一晩で劇的に悪化するとは思いもよらず、朝は天気を確かめずに出発する。明神館は、当然まだ眠りの中で開いていなかったが、水道で水を調達してから出発する。暗くて空の様子はよくは分からなかったが、曇っているようだ。しかし、そのうちに晴れてくるだろうと、出発する。


     カッパを着て宮川のコル上を登る              遭難碑プレートの前で

 最初の関門は、元養魚場からのは入口にある丸木橋。湿っていて滑りそうで、一人ずつそろそろ渡る。ヘッドランプで樹林を登る。涸れ沢を渡ったころから少しずつ明るくなる。昨年に比べて沢は、大雨のせいだろうものすごく荒れていた。
 もうすぐ宮川のコルという所で雨が降ってきた。「まさか。」というのが全員の気持ちだった。カッパを着けなければならないくらいだ。「まあ、諺に『朝雨と女性の涙は怖くない』というのがあるから、すぐに止むだろう。」と登っていくが、だんだん本降りになる。遭難碑が埋めてある岩壁の下でもまだ6時過ぎ。この時間では下れないだろうと、瓢箪池まで行く。





    ひょうたん池まで来るも天気回復せず
 もう晴れてくるのではと思っても、一向にその様子はない。ここですぐ止んでも、上の岩は乾かず、登れないだろうと判断して下山した。まさか、次の日に再びここに来るとは考えてもいなかった。戻りの核心部は例の丸木橋。濡れている上にやや下りになっているのでとても立っては歩けない。四つん這いで這って渡った。
 テントに帰って天気予報を確かめると今日は一日中雨。まさに青天の霹靂。これほど短期予報が外れたのを、最近は知らない。気象庁様、あんまりヤー。
 
8月13日(水)
 昨日の夜の天気予報では、今日は一日中晴れ。夜中も星と満月に近い月。朝出発して、すぐに再度確認するが、その通り晴れ。ヨオーッシ、今日しかない。コースは昨夜皆で検討して、再度同じコースにしようということになった。奥穂南稜ということも考えたが、それだと降りてきてからが長くなるし、明神の方が低いので、今日中に澄ませれば京都にも帰れるということで決定した。

 
      丸木橋を四つん這いで               昨日に続きひょうたん池に

  3時、まだみんなが寝静まっているうちにテントを出る。昨日よりは30分早い。明神も通り越し、明神橋でカッパを着て丸木橋をやはり四つん這いで渡った。順調にひょうたん池まで登る。昨日よりペースがよい。


   ひょうたん池から上、第一階段までの藪                 第一階段

 ここから、第一階段まで、さらに深くなった草を分ける。取り付でゼルプストを着け、最初はフリーで登っていく。すぐに急斜面の草付を左斜上するところに出る。フリーでも越せそうだが、下が長い斜面で高度感もあるので安全策を取ってロープを出す。花折敬がリードして50m一杯で、倒木の幹でビレーを取る。踏み跡は階段状になっている。ミッテルの二人はいつもの通りクレイムハイストで登る。我々はこれまでも、これくらいの斜度と斜面(例えば前穂北尾根くらい)ではこの方式だ。但し、今回からロープは7mmにした。

  
           1ピッチ目から上の急登          ラクダのコル前の小ピーク 後が明神本峰

 全員がここを越えたところで、単独で登ってきたクライマーに追い越してもらう。その速いこと、あっという間に見えなくなってしまう。ルート図に「小ピーク」とあるところは、それほど遠くは無いだろうと頑張って登るが、ここからの尾根の長いこと。登っても登ってもまだ先、まだ先と続く。途中で小休止を取り、気を入れなおして登る。平均斜度は45度くらいだが、部分的には60度以上にもなるだろう。第一階段の取り付からこのピークまで2時間もかかる、しんどい登りだった。
 ここから、前穂方面も含めて360度の大展望だ。先の単独クライマーはもうすでに核心部のバットレスを越えて、終了点で休憩をしていた。我々がラクダのコル目指して下る時には頂上目指して登っていた。ラクダのコルから少し上がったところから、再度、左斜め上へ、草付の急斜面になる。ここでもロープを出した。50m一杯でバットレス基部に着く。

  
      ラクダのコル上の1ピッチ目               1ピッチ目修了点

 いよいよ核心のバットレスだが、斜度は思ったほどではなく、距離も20〜25mほどで威圧感は無い。岩もフリクションがばっちり効きそうだし、取り付の少しゆるい斜面にはハーケンがべた打ちだ。我々は、事前の調査・研究から、クライミングシューズはいらないだろうということで、持ってきていない。
 ここは奥西さんがリード。フリーでイレブンを登るくらいの実力者だから、問題なく簡単に登っていく。抜け手前のピンで最終クリップして、難なく越えた。アルパインの実力も上がったものだ。ロープをセットして、花折忍、網岡国と続く。最後に花折敬が越えて、明神東稜の核心部を無事越えた。
 ここから急斜面を、踏み跡をたどりながら右斜上から、さらに左斜上して左の尾根を越えると頂上はすぐだ。尾根を越えると我々がこれから下る明神主稜を、3人の方が登って来ていて、これからU峰の懸垂をする所だった。ほぼ頂上には予定通りに到着。ここで「平和だから登山が出来る」タオルで記念写真を撮る。

      
        バットレス核心部 リードは奥西          核心部をリードする奥西

しばらく休憩をして、主稜の縦走にかかる。コルまで下って、ルート確認する。ルートだと思われるところにピンが無い。取り付の目の高さに1本あるだけだ。確信と思われる辺りには全く見当たらない。ということはいらない位簡単だということだが、やはりピンが無いと不安である。ここで主稜を登ってきた3人が懸垂してきて言葉を交わす。何とこの3人、今朝上高地に入り、この時間でここまで登ってきたとのこと。その速さは尋常ではない。

 
         サードの網岡                 明神主峰頂上にて バックは前穂

         
             明神U峰ルート図(3級)        U峰1ピッチ目をリードする奥西

 ここも奥西さんがリードする。途中でカムを一つ効かせて核心部を越し、25mほどで1ピッチ目を切る。2ピッチ目はやはり25mほどで、花折敬がリード。これも最初の一歩だけで、後は階段状。難なくU峰の頂上に立った。ここから後はロープはいらない。ゼルプストも外して下る。


          2ピッチ目の網岡            W峰の稜線で、バックは右から本峰・U峰・V峰

 U峰からV峰はすぐだ。V峰の下りはクライムダウンになる。これを下ってW峰は岳沢側をトラバースして手前のピークを越した向こう側へ登り返して、稜線に出る。少し行くとW峰の頂上だ。ここでも「平和だからタオル」で、主峰・U峰・V峰方面をバックに記念写真を取る。
 ここからの下りで単独の人とすれ違う。「途中でビヴァークですか。」と聞かれるので、「今日中に下まで降ります。」というと、それほどでもないだろうに、びっくりしていた。先の3人もこの人も、X峰からの下りにあるナイフリッジが怖そうに言っていたので、楽しみにX峰に向かう。


        X峰よりW峰を振り返る                    X峰の頂上で

 X峰で小休止して展望を楽しむ。ここからの下り、明瞭な踏み跡に沿って進むと一つ手前(北側)の尾根を下ることになる。途中で気がついて、トラバースしようとするが這松が濃くてできない。少し登り返して、かすかな踏み跡をトラバースして、少しだけ這松をこいで正規の稜線に出た。しっかり確かめたはずなのに、左側には踏み跡は無かったと思うのに、どこかにあったということだろう。それにしてもあの明瞭な踏み跡はどこに下って行っているのだろう。


X峰を振り返る、左スカイラインの尾根の方に降りて       この尾根をひたすら降りる
しまった。上部中央の岩の右に降りなければならない。

 ここを下った所は、何張りもテントが張れる広場となっている。一つだけ岩の上に赤い○印がある。その方向に進んで行くと踏み跡があって、それをドンドン下っていくことになる。この踏み跡に入れば後はルートファインディングいらない。他に行きようもなく、ただこの踏み跡をたどればよい。例のナイフリッジはどこだろうとドンドン下っていく。下っても下ってもなかなか辿りつかない。1時間半ほど下ってやっとそのリッジへ着いた。
 出会った人達が言っていたほど怖くは無い。また、読んだ記事にはフィックスロープは邪魔になるだけだと書いてあるものもあったが、そうでもなかった。我々は、もちろんそれに頼り切って降ることは無かったが、それを持ってバランスを取るにはちょうど良かった。出会った人が言っていたようには、全く怖さは無かった。それほど下りにくいとも思わなかった。むしろ変化があってよかったと言える。

 
     例のナイフリッジ、怖さは無い           河童橋にて明神方面を振り返る

 これを越すと、急な斜面を踏み跡に沿ってただひたすら下る、下る。もういや、足先が痛い、と辟易した頃、やっと岳沢登山道に出る。標識には7番「風穴・岳沢ヒュッテ」とあるが、風穴もこれより上部になる。我々は下にあるのかもと思って下るが無かった。一休憩後、上高地に向う。午後5時を過ぎたというのにまだまだ人の多い河童橋に到着して長い一日を終えた。行動時間14時間20分となった。これまでのこの4人の最長となった。
 今回は台風に振り回された。当初は9日に涸沢に入り、前穂北尾根の最低コルからY峰を越えて奥又白に行き、ここから明神東稜を登って岳沢に入り、さらに奥穂南稜、畳岩尾根を登る計画だった。ところがまともに台風が来るというので出発を遅らせて、明神東稜(時間によっては主稜下降)と奥穂南稜を狙って入ったのにもかかわらず、それも回復が遅れて断念し、今回の明神東稜〜主稜縦走だけとなった。まあ、とりあえずこれだけでも完遂出来て良かったとしなければならない。
 それにしても4人とも、さすがに14時間を過ぎる行動ともなると、疲れた。歳もそれなりにあるだろう。来年からは登攀は一つにして、それと混ぜてピークや縦走を入れようということになった。来年はどこにしようか、今から計画を温めることになる。
報告:花折 敬司




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